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弁護士山本了宣の研究日誌

活動の記録と、日々考えたことなどを書きます。技術的な話が多いかもしれません。研修などでは言いたいことをだいぶ削っていますので、そのぶんの話なども。

強姦再審無罪事件 国賠訴訟提起の解説

 報道がありましたが、平成27年10月16日に、大阪地裁で再審無罪判決が言い渡された強姦再審事件について、本日、国家賠償訴訟が提起されました。

www.asahi.com

 

この訴訟のテーマは大きく3つあります。

 

1 警察官・検察官の、捜査や公訴提起の過失
2 裁判所の誤判の責任(裁判所が真摯に冤罪発見に努めればこの誤判は回避できた)
3 再審請求審で、検察官が、証拠の一覧表の開示命令を拒否した行為の違法性

 

 1と2は、これまで数々の冤罪事件で問題にされてきたもので、1については、いくつか認容例があります。
 この事件でも捜査機関・裁判所の過失は大きく、ご本人の被害回復のために、必ず賠償が認められなければなりません。

 

 ここまでは当然のことです。実はこの事件で新しいのは、3つ目のテーマになります。少しご説明したいと思います。

再審での証拠開示

 再審で無罪の判決を得るためには、再審請求の手続をしなければなりません。これは非公開で、裁判官、検察官、弁護人の3者の間で進められます。現在の実務では、「再審開始」という判断が確定した場合、無罪の判決も言い渡されるのが通例ですので、再審請求手続が再審の本番と考えてかまいません。

 通常の公判でもそうですが、再審請求手続においても、証拠開示が非常に重要な意味を持ちます。有名なところでは、袴田事件、東電OL事件などは、検察官が保管していた証拠が無罪の大きな決め手となっています。訴追側の抱え込んでいる証拠が無実を明らかにするという逆説がここにあります。
 しかし困ったことに、刑事訴訟法は、再審の条文をほとんどおいていないのです。再審での証拠開示も規定されていません。現在の実務では、検察官は証拠開示に非常に消極的で、裁判所もそれを追認するという実状がありました。そのため、冤罪の濃厚な事件であっても思うように証拠を得られない状況が続いています。

 

証拠目録

 ところで、証拠開示と切り離せない問題に、証拠目録というものがあります。証拠目録とはその名の通り、捜査機関が持っている証拠を1件1行程度で、一覧表にして記載したものです。
 捜査機関は文字通り膨大な証拠を保管しているのですが、弁護側にはそれが見えないので、証拠開示請求をすること自体が暗中模索になります。しかし一覧表があれば、だいたいどんなものがあるかという手がかりは得られます。一方で捜査側も、目録を見せたとしても証拠そのものを見せることにはならないので、敢えて拒む理由は無いはずではないかということが言えます。
 そこで、証拠開示のお隣さんとして、証拠目録の開示ということが繰り返し問題になっているのです(今回の改正刑事訴訟法は、通常公判についてだけ証拠目録を立法化しました)。

 

裁判所は証拠目録を弁護人に交付せよとの命令を出した


 今回の再審事件の特殊性に、この証拠目録の問題があります。

 この再審請求手続中に、弁護人は、裁判所に対して、検察官に全証拠の開示をさせるようにという証拠開示命令の申し立てをしました。それはそのままは認められなかったのですが、そのかわり裁判所は、「証拠の一覧表」を弁護人にわたすことを検察官に命じたのです。しかも、「決定」という強制力を持った形式で命令を発しました。
 実は、これは史上初の出来事でした。これまでにも、「勧告」などという形で、証拠目録の提示を促すということは行われた例があったのですが、「決定」という強制力のある形で命令が発されたことはなかったのです。弁護団もこの決定を好意的に捉えていました。

 

 

目録交付を拒否した検察官

 ところが喜んだのは束の間、決定の一週間後に、検察官は意見書を提出します。そこには、裁判所の命令は拒否すると書かれていたのです。当然、弁護側はもちろん、裁判所からも非難がなされたのですが、検察官は応じません。結局最後まで、証拠の一覧表は開示されませんでした。

 この検察官の行為は違法でしょうか? もちろん違法でしょう。検察官は訴訟当事者である以上、裁判所の命令に従う義務があります。しかも検察官は、異議申し立てや特別抗告などの、不服の手続きをとっていません。いわば、「出さないものは出さない」といって実力行使で拒否してしまったわけです。

 

国家賠償請求へ


 これはどうしたって見過ごせない事態です。
 再審請求手続内で、証拠一覧表の交付を命じられたとしても、検察官は実力行使で拒否してしまえばそれまでなのだということになりかねません。
 より一般化すると、検察官が裁判所の命令にしたがいたくなければ、拒否できてしまうのだということになります。検察官の倫理としても、それはただされなければなりません。

 そういう次第で、弁護団はこの訴訟で第3のテーマ、証拠目録交付拒否に対する賠償請求をかかげています。

 

初めての目録交付命令 
それに対する検察官の実力行使の拒否
それに対する国家賠償請求

 

 初めてが3つ重なった非常に重要なテーマとなります。
 証拠目録の交付を受けることは、再審請求人の権利であると考えられます。その侵害であるとして、損害賠償を求めています。
 ご注目いただけたらと思います。

 

 

 第2の点(裁判官)の解説です。

ryosen-y.hateblo.jp

 

 

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