弁護士山本了宣の研究日誌

活動の記録と、日々考えたことなどを書きます。技術的な話が多いかもしれません。研修などでは言いたいことをだいぶ削っていますので、そのぶんの話なども。

「裁判官協議会」を知る

いま私の手元に、「刑事事件担当裁判官協議会」に関する書類の山があります。平成22年から平成27年までのものです。司法行政文書ファイルをまるごと謄写しています。何月何日にどこで裁判官協議会が行われ、出席者が誰で、協議事項が何であったか、そして協議結果の要旨まではわかります。近時話題になっている、公判前整理手続での間接事実の整理という協議事項もあります。

さて、そこで、裁判官協議会というものについて少し話をしてみたいと思います。裁判官協議会についてはいくつかの文献がありますが、裁判官協議会の司法行政文書ファイルを確保して書かれた文献はそんなに無いと思いますので、私が多少物申しても無駄ではないでしょう。

 

裁判官協議会というものがある

 

先に概要を言いますと、裁判官協議会というのは、最高裁(事件局)の指定によって、
  全国から最高裁へ 
又は
  いくつかの高裁ブロックに分かれてその地域内で
裁判官が集まり、一定の事項について意見交換をするという集まりです(他のパターンもあるかもしれません)。
協議事項は最高裁が指定しています。

司法行政文書ファイルを追ってみる

私の手持ち文書から分かるところを具体的に書いてみます。

まずはテーマと開催時期の一覧です。

【テーマ、開催時期一覧】
刑事事件担当裁判官協議会
※H27簡裁判事のもののみ「簡易裁判所刑事事件担当裁判官協議会」

平成22年 高裁共催 裁判員裁判の審理、評議
平成23年 最高裁  裁判員裁判の課題
平成23年 高裁共催 裁判員裁判の審理、評議
平成24年 高裁共催 裁判制度の運用
平成25年 高裁共催 裁判員裁判の運用
平成26年 高裁共催 裁判員裁判の運用
平成27年 最高裁  刑の一部執行猶予
平成27年 高裁共催 裁判員裁判の運用(間接事実の整理)、刑の一部執行猶予
平成27年 高裁共催(簡裁判事)刑の一部執行猶予、令状事務など


細かく言うともう少し色々な事項があがっていますが、裁判員裁判に関する協議が毎年毎年行われていますね。最近話題の間接事実の整理は、平成27年に協議されています。平成27年は、刑の一部執行猶予も取り上げられました。

開催までの大まかな流れは、

協議員の推薦依頼
→開催通知
→協議事項の送付
→協議員の通知
→協議会実施
→協議結果要旨の送付

という感じです。

平成27年最高裁主催の協議会は

司法行政文書に即してさらに細かく見てみましょう。
たとえば平成27年最高裁主催のものだとこんな具合です。

年表(平成27年)
3.25 開催日の通知と、協議員推薦の依頼文送付
7.29 協議事項の趣旨を送付
9.14 協議員名簿の送付
10.23 協議会実施(最高裁中会議室)
11.27 協議結果概要の送付

※文書の発信名義人は全て事務総局刑事局長
※通知の送付先
・協議員選出依頼先である高裁長官と地裁所長
・司法研修所長、裁判所職員総合研修所長
・選出依頼先ではない高裁長官
協議員選出の依頼先 
高裁:東京、大阪、名古屋、福岡
地裁:東京、横浜、さいたま、千葉、大阪、京都、神戸、名古屋、津、広島、岡山、福岡、熊本、仙台、札幌、高松
※刑事局長あいさつ→協議→昼食→協議 9:30~17:00

※係官→刑事局長,刑事局第一課長,刑事局第二課長
※協議事項の趣旨→4枚
※協議結果概要→14枚(末尾に模擬事例添付)

 

裁判官協議会は、まず開催日の通知と協議員の推薦依頼から始まります。
これに応じて、依頼先の庁から協議員の推薦が行われます。この回答書が全国からざーっと集まってきます。
その間に協議事項が参加庁へ送付されます。
そして協議員が決まり、その名簿がやはり参加庁へ送付されます。大体,都会の庁を中心に,各庁から1名ずつ(東京は2名)裁判官が参加するというイメージでよさそうです。
その後、協議会の実施→協議結果概要の送付となります。

協議事項の要旨は4枚、協議結果概要は14枚でしたが、それぞれ倍くらいの枚数の協議会もありました。

高裁主催の場合は

いまのは最高裁主催のものでしたが、高裁主催というのもあります。高裁ごとに一つずつではなく、「共催」という形をとって、全国を3か4のブロックに分けます。開催地の高裁に、そのブロック内の裁判官が集まることになります。たとえば、平成27年の高裁共催だと、東京高裁と高松高裁の管内の裁判所から裁判長クラスが1名ずつ、東京高裁に集まって協議会をやるといった具合です(ほか3ブロックあり)。

高裁共催のものだと目に付くのは、最高裁が開催を指示していることです。
平成27年のものだと、
「標記の協議会を別紙の要領によって開催してください」
という一文から通知が始まります。

こんな具合です。

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つまり「主催者」は高裁だけれども、その開催時期・テーマ・参加庁まで、全部最高裁が決めているということです。
そして、
「この協議会には係官を派遣する予定ですから、開催期日が決まり次第これを通知」するように
とありました。

これを読んで私は、大学の教員が学生を5グループくらいに分け、「各グループでこれを議論しなさい」と課題を出し、教員が教室を見回る光景を連想したのですが、どんなもんでしょうか。

 

文献にあらわれる裁判官協議会・会同

さて、ここまで、私の手元の資料から読みとれる話を書きました。
次に、文献で裁判官協議会がどう言われているかを簡単に見てみましょう。

 

司法官僚―裁判所の権力者たち (岩波新書) p168

「裁判官会同・協議会とは、法令解釈や訴訟制度の運用などについて裁判官が「協議」する場であり、最高裁発足当時からもうけられてきた。」

要点として、
・最高裁主催のもの+最高裁の指導のもとに高裁が管内の裁判官をあつめて実施するもの の2種がある
・会同は定例的で、原則全庁参加
・協議会は特定のテーマが事務総局によって設定され、参加庁や出席者も指名される
・裁判官統制の場という指摘がある

 

ニッポンの裁判 (講談社現代新書)p140

「その実態は、「上意下達、上命下服会議、事務総局の意向貫徹のためのてこ入れ会議」に近いといってよい。」


要点として、
・テーマは各事件局(民事局とか刑事局とか)が決める
・出席者は高裁長官や地家裁所長が決める
・出席者に根回しがされることがある
・協議会で議論される問題は、事件局が決めたテーマに沿って参加庁全てが提出する
・事務総局が出席者にやらせて問題を提出させることがある
・局の係官が局の検討結果、見解を述べると、出席者が突然必死でメモをとりはじめる
・「事務総局がまとめた執務資料中の「局見解」は、全国の裁判官たちに絶大な影響を及ぼす」

 

先行する研究としては、小田中聡樹「裁判官会同・裁判官協議会ー戦後の刑事裁判関係にみるその問題点」(法律時報45(4)、1973年)があります。

現在は違っている点もありそうですが、上記以外の要点として

・協議会のほうが人選が恣意的、秘密性が高い
・司法研修所の「裁判官研究会」はさらに秘密性が高く、会同を補充する役割を果たす
・全国会同が最も重要。協議要録が刑事裁判資料として刊行される場合も
・新しい法令の解釈、運用に関するものが一番多い
・個別的テーマでは、審理促進と法廷秩序維持が中核
・最高裁主導である。最高裁が関心を持ったことが協議事項となる
・冒頭の長官訓示は、長官の見解を述べるものであり、かつ、しばしば叱咤激励である
・協議の最後には刑事局の意見が示されてしめくくられる
・法務省、最高検からの参列が非常に多い(弁護士はほぼ来ない)

現場裁判官の関心ではなく、最高裁の関心によって協議事項が決まるというところは、重要な指摘に思えました。

ちなみに刑事裁判資料は、白表紙の裁判官向けの冊子で、裁判所の図書館などにおいてあります。いま290号まで出ています(最高裁図書館のOPACでタイトルは全て見られます)。

文献の指摘と司法行政文書を対照してみる

さて、上にまとめた指摘と、私の手元の文書を対照してみたいと思います。ここからは箇条で書くことにします。

協議会は不定期→△

最高裁主催の刑事裁判官協議会という限定をつけると、この5年で2回しか行われていません。これは確かに不定期かもしれません。
高裁共催となると毎年行われています。平成24年からは、毎年10月実施です。これはほぼ定期的と評価できそうです。

協議会・会同の区別→?

会同は資料が無く、現時点で不明です。
私は刑事裁判に関する「協議会」について開示請求をしたのですが、どうも、「会同」は出なかった可能性がありそうです。


結構よくあるパターンなのですが、ある用語が、部外者や社会通念としては細かな区別がないが、内部的には全然違うことを意味してしまうというものです。
たとえば、「規程」と「規則」は一般用語としてはそこまで違う意味を持ちませんが、行政庁によっては「規程」と「規則」がきちんと意識して使い分けられていたりします。そこで「規則」を開示請求すると、「規程」は出てこないといった具合です。(「被告」という言葉を見ると、業界の人は当然民事事件と考えますが、一般の人は「被告」と書いたら刑事と民事の両方のつもりです。これと同じ構造です)
どうもこのパターンに引っかかったような気がしています。あるいは,刑事関係は,すべて「協議会」であり,会同は無いという可能性も?

最高裁主導である→○

これは間違いなさそうです。高裁主催だが、テーマと開催時期まで最高裁が仕切っているというあたりからも、それは読みとれます。
協議事項も刑事局(事件局)作成です。「現場の関心があることではなく、最高裁の関心のあることが扱われる」という指摘は、どうも正しそうに思えます。

局見解が発表される→?

高裁協議会に係官が派遣されることは確認できました。
私の手元にある協議要旨は3回分だけなのですが(他はなぜかファイルに含まれていなかったので再度開示請求している)、それを読む限り、「局見解」という明示的な記載は見あたりませんでした。
協議要旨のまとめ方も、各意見を併記するという感じでした。もちろん、そこに恣意を入れることは簡単でしょうけれども、テコ入れというほどのはっきりした押しつけの空気は、私の手元資料からは感じませんでした。
ここは現時点で真偽不明なので、ほかの資料も確認してみなければならないと思っています。時代や分野によるところもありそうですし。
局の係官の振る舞いも文書からは分かりません。

新しい法令や審理促進→○

平成27年は刑の一部執行猶予を取り上げる協議会が3つもありました。その前は連年裁判員裁判の運用がテーマです。ですので、おそらくは、「新しい法令&実務的に影響の大きいもの」はやはりテーマとなりやすいだろうと思われます。
協議内容を見ると、やはり実務的です。たとえば令状に関する協議会(H27高裁共催簡裁判事)では、令状の誤記をどうするかということが話題にされ、「裁判官も指さし確認をするべきだ」なんて発言も記録されていました。公判前の争点整理に関する協議会(H27高裁共催)では、「あなたはAの事実を立証したいと言っておられるが、それにどれだけ意味があるのでしょう。もしAでないという事実が立証されたらどうなりますか、といった具合に否定事実について質問をしてみる」なんていう「工夫」が載っていたりしました。
こういうレベルの、具体的な話がなされています。

司法研修所の研究会が補う→○

たとえばH27高裁共催の協議事項には「7月及び11月に司法研修所で開催された刑事実務研究会(裁判員2及び裁判員3)においても、協議員から提出された研究事項について、具体的事例をもとに」議論がなされたという記載がありました。司法研修所ではもっと頻繁に(少人数で?)突っ込んだ議論をしているということでしょうか。

まとめ

さて、今日のところはこのあたりにいたします。本日は数点の文献と、刑事裁判官協議会の司法行政文書ファイルから分かることを書きました。
今後は新たな司法行政文書の入手や、裁判所時報の確認などをおこなってみたいと思います。
司法行政文書の開示請求から開示まで1ヶ月から数ヶ月かかりますので、あまりハイペースでは進みません。