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弁護士山本了宣の研究日誌

活動の記録と、日々考えたことなどを書きます。技術的な話が多いかもしれません。研修などでは言いたいことをだいぶ削っていますので、そのぶんの話なども。

証拠開示とは

 「証拠開示」というのは、裁判の中で実際どう行われているのか。法律上どういう風に位置づけられているのか。どんな問題点があるのか。予備知識無しでも、具体的なイメージがわくように解説します。
 一般の方に理解でき、法律家が読んでも役に立つレベルを目指して書いています。

1 おおざっぱに

 証拠開示というのは、検察官が、弁護側に、自分の持っている証拠を見せたり、コピーさせたりすることです。弁護側はそれを利用して、防御活動の準備をします。証拠開示は、法律上は限られた期間、限られた範囲でしか認められない上に、弁護側にはどんな証拠があるのかが見えません。十分な証拠開示は実現されておらず、えん罪などの一因になっています。
※正確には、弁護人から検察官に見せることも「開示」です。

2 証拠とは

 証拠開示の対象は「証拠」です。ここで言われる「証拠」とはなんなのか。初めに考えてみましょう。
 たとえば殺人事件の現場に、血のついたナイフが落ちていたとします。これは犯人を突き止める手がかりとなったり、犯行状況を明らかにする重要な資料になります。証拠の代表格は、まず、こういった証拠物と言えるでしょう。証拠物は評価の仕方は複数ありえても、証拠自体は動きませんから、基本的かつ価値が高いものとなります。

 同時に、実務で非常に重要な役目を果たしているのは「捜査書類」です。捜査書類とは、捜査機関が、捜査のために作ったり、入手したりした書類全般をさします。たとえば供述調書、実況見分調書、鑑定書、といったものが有名です。
 しかし捜査書類はほかにもあり、これが実に多種多様です。
 名前を挙げ始めればキリが無いのですが、ここではわかりやすくするために
①記録・報告系
②依頼・照会・回答系
③帳簿・メモ系

という3つの分類で説明してみたいと思います。

※この分類は筆者独自のものであり、一般的な用語ではありません。

①記録・報告系

 捜査書類というのは、基本的には記録文書であると言えます。こんな捜査をしたところ、結果はこうでしたよということを書いておくというのが、捜査書類の基本的な意義です。ここに捜査対象や手続を組み合わせると、捜査書類の種別が決まってきます。

 例をあげます。

 

人から聞いた話を記録する→供述調書
現場の状況を記録する→実況見分調書
入手した証拠物を記録する→領置調書
証拠物の現状を写真で記録する→写真撮影報告書
逮捕の状況を記録する→逮捕手続書

 

 こんな具合です。記録したい捜査対象や手続で、名前が変わると考えてもいいわけです。
 4番目に出てきましたが、その中に「○○報告書」「捜査報告書」などと名付けられるものがあります。「報告書」というのは、決まった名前が無いもの全部、くらいに思ってもらってもよく、ほんとに多種多様です。メモして残しておきたいことであれば、なんでも捜査報告書になります。人の話の記録であっても、供述調書を作らず、聞き取り結果報告書ですませていることも珍しくありません。

 ほかに、もう少し「まとめ」や「意見」的な報告書もあったりします。「複数の証拠をつきあわせると、○○だったと推測される」みたいにプチまとめを書いたようなものです。こういうのも捜査報告書です。
 こういう具合に、なにかの捜査について記録をしておく、場合によってはちょっとした分析や意見を記載して報告するというのが、捜査書類の基本的な役目ということになります。

②依頼・照会・回答系

 2つ目の依頼・照会・回答系というのは、第三者が関わるタイプのものです。たとえば鑑定というのも、専門技能のある方にお願いしてやってもらうわけです。その場合には、「鑑定嘱託書」が発信されます。これは鑑定の依頼文というわけです。これに対して、「鑑定書」というお返事がやってきます(鑑定人は科捜研や医師、つまり、直接の捜査担当者でないのが普通です)。
 他に、たとえば電話会社や役所などに問い合わせをして、情報収集を行うことがよくあります。このときには、「捜査関係事項照会書」が発信されます。そして、照会先からは、「回答書」がかえってきます。
 こんな具合に、外部に依頼して返答をもらう、この一連のプロセスで行き来する書類も、すべて捜査書類となります。

③帳簿・メモ系

 3つ目は、正式の捜査書類形式を取らない文書たちです。たとえば有名なのは「取調べメモ」です。これは捜査官が被疑者や参考人の取調べをした際に、話を聞きながら手元のノートや紙に内容を書き留めたものです。弁護士が依頼者の話を聞きながらレポート用紙にメモをとるのと理屈は同じです。このメモがもとになって、のちのち供述調書などの書類につながっていきます。そういう意味では取調べメモは正式でない文書です。しかしこれも証拠開示の対象と考えられています。
 帳簿というのは、たとえば「捜査日誌」などといったものです。捜査日誌は係ごとに備え付けられた業務日誌という位置付けで、係長などが、その日にどの捜査員が何をしたかを記録しています。事件のために作られた証拠というより、職員管理的な色彩のある文書です。しかしこれも証拠開示の対象となりえます。
 帳簿・メモ系は、普通は検察官に送致されませんので、典型的な「証拠」ではありません。しかし訴訟の進行や争点次第で「証拠」としての地位を獲得します。その意味では周辺的、相対的なものです。

④まとめ

 捜査書類というのはこんな具合です。
 非常に簡単な目安を言えば、捜査機関は何かをするたびに、逐一書類を作って記録しているのです。たくさんの警察官が、たくさんの捜査をすれば、たくさんの書類が作られます。こうして大事件であれば、何千点という書類が作られることになります。また、自分が作ったもの以外に、外部から受け取ったものも捜査書類として扱われます(短く言うと「作成・取得」です)。メモ・帳簿のようなものも、証拠として扱われる場合があります。

 これらは全て捜査過程の記録であり、事実の痕跡を示すものですから、裁判に無関係ということはありえません。重要度の差は当然あるのですが、ひとまずその全部が、弁護側には検討すべき対象として意識されることになります。

3 証拠「開示」とは何をすることか

 ところで、「開示」と一言で言いますが、それは、いつ、どこで、誰が、何をすることを言うのでしょう。
 法律上は、開示とは証拠の「閲覧・謄写の機会を与える」という風に整理されています。

 

閲覧:弁護人が検察庁に出かけていって、原本を見ること
謄写:証拠をコピーしたり写真に撮ったりすること

 

 閲覧は文字通りですね。
 謄写については、検察庁内に謄写を行う業者さんがおられることが多いです(地方によります)。そこに依頼すると、開示された証拠のコピーをとって、弁護士の事務所まで届けてくれます(結構お金がかかります)。
 この違いがどういう意味を持つか。
 まず、当然ながら原本を見たければ「閲覧」するしかないということです。「重要な証拠物や写真を細かく観察したい」と思ったら、弁護人は検察庁に出かけていきます。
 「謄写」については、そのコピーを手元においていつでも読めたり、裁判の最中に証人に簡単に示したりできるということを意味します。しかしごく一部の証拠ではありますが、「閲覧のみ」という指定となることがあります。その場合、その証拠のコピーは入手できません。

 検察官のやることは、開示する、と決めた証拠を選り分けておいて、弁護人に通知することです。捜査書類であれば、検察官の持っている捜査書類のファイルを物理的に解体して、「弁護人に開示する捜査書類」という新たなファイルに移し替える作業がなされるようです。

4 証拠開示がなぜ必要なのか

 証拠開示が重要な意味を持つのは、やはり無罪が争われる事件です。
 有名なところでは、たとえば布川事件があります。布川事件では現場に落ちていた毛髪の鑑定が行われており、そこに被告人の方の毛髪は無い一方、第三者の毛髪があるということが捜査過程で判明していました。これは無実の有力な根拠になります。検察側はその鑑定書を保管している訳ですが、弁護側は証拠開示が無ければ、その鑑定書を見ることさえできず、裁判にも提出することができません。布川事件では再審になってからようやくその鑑定書が開示され、裁判所で初めて取り調べられたのでした。こういう具合にえん罪事件で証拠開示は決定的な意味を持ちます。


 ただ、証拠開示の意義は、こういう風な直接的な証拠を手に入れることに限りません。
 私の感覚では、証拠開示の大きな意義は、弁護側が捜査記録を見ることで、事件の全体像や真相、捜査の流れを把握することにあります。
 たとえば被害者の供述証拠の開示を受けてみると、被害届を出したときには、被害者は全然違う説明をしていたことが判明したりします。しかもそれが被告人の言い分と矛盾しなかたりします。その場合、弁護側は、真相はこの被害届の記載に近いものだろうと考え、それを明らかにするために更に証拠を集めたり、主張を組み立てたりしていきます。
 あるいは、犯人がなかなか見つからず、事件から1年たって被告人の方が逮捕された(そして無実を訴えている)という場合、その1年間警察がどんな捜査をしてきたのかということ自体が意味を持ちます。たとえば捜査の欠落があって、真犯人を見逃しているのではないかという観点での検討ができます。
 起訴状と請求証拠が「結論」だとすれば、捜査記録は、その「理由」を書いた「レポート」のようなものだと言えるかもしれません。レポートをきっちりと見ていくことで、背景や前提が分かるし、試行錯誤の跡も見え、つっこみどころも分かってくるというわけです。結論だけ見せられてもつっこみどころは分かりませんよね。 

 そういう意味で、証拠開示というのは、どんな事件にせよ、真相を考えるための基本的な土台であると言えると思います。

 もう少し突っ込んだ話として、こちらも参考にしてください。

ryosen-y.hateblo.jp

5 証拠開示はいつなされるのか

 ところで、裁判は、捜査(逮捕)から始まり、起訴、公判前整理、公判、判決、控訴審、上告審、ときに再審といった具合に続いていきます。証拠開示はどの段階でどの程度なされるのでしょうか。
 先に結論を言いますと、法律が証拠開示請求権をはっきり定めているのは、実は公判前整理手続の間だけです。ほかは権利がなく、開示がなされる保障はありません。

 

 まず手続の流れを簡単に見てみましょう(★あとで図を作ります)。

 話をわかりやすくするために、「1件の殺人事件がおき、3日後にある男性が逮捕された、男性は無実を訴えている」とします。捜査の期間は、初めの約20日間です(勾留は20日がリミット)。取調べや現場の調査や鑑定といった諸々の証拠収集を行う期間です。そして、勾留のリミットまでに、検察官は起訴か不起訴を決めます。

※ただし、勾留は事件単位で認められますので、たとえば死体遺棄で20日、殺人で20日・・・といった具合に、実際の捜査期間はもっと引き伸ばされることがよくあります。

 

 起訴となると、それ以降は裁判手続となり、手続の性格ががらっとかわります。捜査機関は補充である程度捜査することもありますが、本人への取調べは原則禁止されます。

 裁判員裁判対象事件ですと、必ず「公判前整理手続」が行われます。この間に、検察側はどういう主張をするかを明らかにし、有罪立証のための証拠も請求します。

 この段階でようやく証拠開示の出番となります。弁護人が「類型証拠開示請求」を行って証拠の開示を受け、それから「予定主張」を提出し、それと同時に「主張関連証拠開示請求」を行います(言葉の意味はあとで説明します)。刑事訴訟法が定めている証拠開示の制度は、この2つだけです。

 これらの手続を経て、採用する証拠や裁判の日程を詰め、ようやく裁判員の方の呼出→公判(裁判員が参加)となっていきます。

 法律上、証拠開示請求権がはっきり認められているのは、この公判前整理手続が始まってから終わるまで、の間です。それ以外の期間は権利がありません。たとえば、公判が始まって証人尋問の最中に「あ、あの証拠を確認したい」と思って開示請求しも、これに応じるかは検察官次第です。控訴審で、「この証拠の開示請求が必要なんじゃないか」と思って開示請求しても、これに応じるかはやっぱり検察官次第です。

 私の見聞の範囲でのことですが、今の相場はこんな具合です(2016/10/22時点(H28改正法施行前))。

 

捜査段階→一切開示されない
控訴審→開示する検察官もいる
上告審→(あまり耳にしません。私は拒否された経験があります)
再審→なかなか開示されません。そして非常に紛糾します。

 ときどき、「弁護士さんは自由に証拠見られるんでしょう?」とおっしゃる方がおられるのですが、それは大いなる誤解です。特に捜査段階では全くと言っていいほど見られません。

6 証拠開示には4種類ある

 証拠開示がいつされるのかという話までが終わりました。次は、証拠開示の種類の説明をします。

 「証拠開示」というのは、次の4種類のどれかになります。厳密に書くと複雑すぎるため、イメージをつかむことを優先します。正確なところは条文などを確認してください。

 

① 類型証拠開示
② 主張関連証拠開示
③ 任意開示
④ 訴訟指揮権による開示

① 類型証拠開示(刑訴法316条の15)

 公判前整理手続限定です。
 「類型」という言葉が出てきました。刑事訴訟法が、1号=証拠物、3号=実況見分など、4号=鑑定関連、5号=供述調書類や録音録画といった具合に、証拠開示の関連で証拠の「類型」というのを決めているのです(H28改正法で1~9号まで)。

・この類型のどれかにあてはまる証拠であること
・開示の必要性、相当性の要件を満たすこと

という条件のもとで開示を認めるのが類型証拠開示です。「類型にあてはまる証拠開示」という風に読んだらいいと思います。開示される範囲は「類型」に限定され、さらに、必要かつ相当という縛りがかかります。
 類型証拠開示は公判前開始直後から利用できますので、証拠開示請求の主役になっています。

 弁護側が証拠開示を集中的に行うのは、公判前が始まって数か月くらいの期間が多いです。その場合は、たいてい類型証拠開示を利用しています。

※刑訴法改正により、類型に該当する証拠物についての押収手続記録書面という開示類型ができました。詳しくは改正刑訴法316条の15Ⅱ。

② 主張関連証拠開示(刑訴法316条の20)

 公判前整理手続限定です。
 「主張」というのは、弁護側の「予定主張」のことです。公判前整理手続では、類型証拠開示請求が終わったあとで、弁護側が「予定主張」(=公判でする予定の主張)を明らかにすることになっています(書面で1~数枚程度出します)。すると、その「主張」に「関連」する証拠の開示を請求できるようになります。これが「主張関連証拠開示」です。

・予定主張に関連する証拠であること
・開示の必要性、相当性の要件を満たすこと

が要件です。

 主張関連証拠開示の場合は、主張に関連させる必要はありますが、「類型」にあてはまっている必要がないですので、上手に使うことで、開示の範囲を広げることができます。
 主張を出したあとでないと請求できないというのがポイントです。弁護側は可能な限り多くの証拠を見てから主張をするのが原則ですので、主張を出さないといけないというのは実は大きな難点です。
 したがって、類型証拠開示請求をできるだけ手厚く、それでも残ったものを主張関連証拠開示請求で、という棲み分けがなされることになります。請求する時期も、公判前の中盤くらいになってきます。

 法律上、開示請求権が定められているのは、類型と主張関連の2種類だけです。公判前限定の権利というわけです。

③ 任意開示

 検察官が「任意」に証拠を「開示」することを「任意開示」と読んでいます。「任意に」というのは、法律の義務がなくても、という意味合いです。つまり、「類型や主張関連などとは無関係に開示しますよ」ということです。

 公判前以外での開示(一審の公判前終了後、控訴審、再審など)は、基本的に全部「任意開示」ということになります(義務は無い)。
 公判前の中でも、「類型」「主張関連」の要件を満たすかどうか微妙な証拠は、「任意開示ですよ」といって開示されたりします。

 類型や主張関連は少なからず窮屈な手続ですので、実際上、任意開示は大きな役目を果たしています。

※任意開示の2パターン
 任意開示には2パターンあります。
 1つは、公判前で、検察官が、弁護側の請求が無いうちから証拠を開示するというパターンです。これは公判前の慣行ですが、公判前整理手続の序盤に、検察官が一定の証拠を、「任意開示します」といって、一気に開示してしまうというやり方です。
 もう1つは、弁護人が類型や主張関連で開示請求をしたのに対して任意開示するというやり方です。たとえば類型にあたるかどうかが微妙な証拠について、厳密に要件判断するかわりに、「任意ですよ」ということにして開示しているわけです。なお、控訴審や再審は、全部「任意開示」になります。
 いずれにしても、「任意」ですから、どの範囲を開示したのかということはわかりません。たとえばWさんの調書が10通開示されたとしても、それで全部なのか、それともまだ5通残っているのか、そのあたりは判別できません。ですので、弁護人のほうは、証拠開示請求を別途行うのが正しい対応になります。

 任意開示が行われるのは,法曹三者にそれぞれメリットがあるからと考えられます。
・弁護側→条文の枠にとらわれずに広く開示を受けられる
・検察側→ギリギリとした要件の判断を回避できる、関連するものはまとめて開示してしまうほうが開示作業も証拠管理も能率的
・裁判所→早く開示がなされるほうが、手続は早く進む(公判前手続内で証拠開示が紛糾すると何ヶ月も浪費する)

※裁判所のところに「えん罪を防げる」と書こうかとも思ったのですが、裁判所がそういう言い方をするのをあまり聞きません。

④ 訴訟指揮権による開示

 訴訟指揮権といって、裁判所は当事者に何かを促したり、命じたりすることができます。裁判所はその訴訟指揮の一種として、検察官に、証拠を開示せよと促したり、命じたりできるとされています(最決S44.4.25)。
 公判前で証拠開示に争いが生じた場合には「裁定」という手続が準備されていますが、控訴審、再審などでは、訴訟指揮に頼るしかありません。
 ただ、はっきりした要件が無いですし、裁判所が訴訟指揮で開示を命じるということは実際上多くないので、弁護側にとってあてにできるものにはなっていません。

7 開示される証拠の範囲はどうなっているか

 さきほど説明した証拠開示の4種類を踏まえて、どの範囲の証拠が開示されるのかの話をします。
 「範囲」という言い方をするのは、つまり、証拠開示という制度は、「全部開示ではない」ということが大前提です。捜査機関が入手する証拠のうちの一定の範囲が、一定の要件で開示される、これが今の証拠開示制度です

 法律上はっきり権利になっているのは、「類型」「主張関連」の2種類だけですので、ギリギリ言うと、この2種類の範囲に入らなければ、開示される保障はありません。
 ただ、今の実務では、任意開示がかなり広がっています。それも含めて考えると、公判前ではだいたい次のような目安が立つでしょう。

◆開示されやすいもの
・供述調書→被告人や証人のものであればほぼ開示される。それ以外の人は中身次第。
・鑑定関係→ほぼ開示される
・現場関係(実況見分など)→ほぼ開示される
・証拠物→請求証拠とつながりがはっきりしているものはだいたい開示される。入手した証拠物全部というような開示請求は抵抗を示される。
・照会書、回答書→客観的なものが多いので、開示されやすい
・捜査報告書その他こまごました書類→ここまでに準じたものは開示されやすい。

◆開示されにくいもの
・他事件の捜査が並行していて、それと関連するような証拠。
・プライバシーの度合いが強い証拠。たとえば関係者の前科。
・内部資料という色彩の強いもの。たとえば捜査関係の帳簿など。(取調べメモもこの枠に入るが、今はかなり開示されやすくなった)
・請求証拠との関係が分かりづらいもの全般

  一方、公判前以外となると、権利が無いということに引っ張られてか、任意開示の幅もせばまりがちです。理由もより具体的なものが求められてきます。

 塩辛い対応も多く、課題となっています。特に再審はガチガチの場合が多いです。

8 証拠の一覧表制度とは

 刑事訴訟法が改正されて、証拠の一覧表制度というものが作られました。現時点では導入されていない制度ですので、どういう風になっていくかはわかりませんが、ポイントを記しておきます。

・やはり公判前限定です。それ以外の場面では適用されません。
・タイミングは、検察官請求証拠の開示後です。早ければ、公判前が始まって1ヶ月くらいで入手できると思われます。
・「検察官が保管する証拠」が範囲です。警察署保管の証拠は含まれません。
・証拠のタイトル、作成者、供述者、作成日の記載が義務です。概要の記載は義務ではありません。つまり、一覧表で、10ページにわたって「捜査報告書」とだけ書かれていて、中身が全くわからないといったことが起こりえます。

実際の一覧表はおそらくこんなものになるとおもわれます(私の試作したもの)。

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 もちろん画期的ですが、しかし中身がわからないという非常に大きな問題があります。概要が書かれなければ、一覧表の半分くらいはなんのことかわからないという事態が容易に予想されます。
 法律の規定にはそういう限界があるということを、私たちはよく理解しておくべきでしょう。概要を記載する運用が期待されます。

9 証拠開示の実際の書類など

 さて、ここまで仕組みの話をしてきましたが、記載例を少し紹介してみたいと思います(法律の要件を満たせば形は自由ですので、やり方は複数あります。私自身もアレンジしていることが色々ありますが、ここでは最大公約数で紹介します)。

 類型証拠開示請求書は、こんな書き方がされることが多いです。

1 Xの供述録取書等
類型:5号
理由:甲○号証はXの供述を記載している。その証明力を判断するために,Xの供述を記載した証拠の開示を受けることが防御上重要である。

2 現場Yの検証調書、実況見分調書等
類型:3号
理由:甲○号証は現場Yの状況を記載している。その証明力を判断するために,現場Yの状況に関する証拠の開示を受けることが防御上重要である。

3 証拠物Zの写真撮影報告書、Zの鑑定嘱託書・鑑定書
類型:1号、3号、4号
理由:甲○号証は、証拠物Zの原本である。その証明力を判断するために、Zの形状・分析・鑑定等に関する証拠の開示を受ける必要がある。

 一番シンプルなものをあげました。もっと複雑になる場合もありますが、こういうのを何項目も作っていきます。否認事件ですと、要領よく書いても結構な枚数になります。

 回答書は、今は目録の形で手渡されることが多いです。さきほどの「証拠一覧表」と同じような形式です。証拠の一覧表制度が導入されたら、それを回答に転用する形になっていくかもしれません。

 主張関連証拠開示請求書も、類型と似たような書き方になります。
 先ほども書きましたように、類型証拠開示のほうが分量はずっと多く、主張関連は補助的に用いられることが多いです。

10 今後の課題

 ここまで証拠開示のイメージをつかんでいただくということを目標に説明してまいりましたが、だいたいおわかりいただけたでしょうか。
 以上のことをふまえまして、最後にいま証拠開示で何が課題かということをお話ししたいと思います。

 まず弁護士の目から見たときの理想状態を先に述べておきます。それは手続段階を問わず、求めれば、全ての証拠が速やかに開示されることです。かつ、「全て」の検証のために、十分な証拠目録も求められます。そういう意味では非常にシンプルです。
「課題」というのはそれと現状の落差ということになります。整理して述べると以下の点になります。

①公判前整理手続中だけしか権利が無い

 繰り返し述べたように、今の法律では、公判前整理手続の中でしか、証拠開示の権利がありません。
 公判前をやらない普通の公判だとどうか? 権利は無いのです。「権利を持って充実した証拠開示をやりたければ、公判前をやってください」というのが今の法律です。しかしこれはロジックが逆でして、証拠開示は公判前があるか無いかに関わらず認められるほうがずっと自然です。その上で、必要があれば、通常公判ならこう、公判前ならこう、控訴審ならこう、再審ならこう、といった具合に、手続段階による微調整を加えるというアプローチが正道のはずです。

※台湾では、捜査段階で一定範囲の証拠を開示するという立法が検討されているそうです

②控訴審や再審

 一審は公判前を選べるだけまだよいのですが、控訴審や再審では権利を得る道がありません。証拠開示がなされる保障がありません。特に証拠開示が無かった時代の事件は、証拠開示が無かったというただそれだけで、誤判の危険が高いとみてよいでしょう。せめて再審で十分な証拠開示がなされなければなりませんが、現状はそうなっていません。

③証拠開示の範囲が限られている

 類型証拠開示、主張関連証拠開示は、全証拠を開示させる仕組みにはなっていません。類型・主張関連で、必要な証拠が捉えきれる保障がない以上、やはり十分とは言いがたいです。

④証拠開示が「難しい」

 類型証拠開示は、結構な技術を求められます。証拠の全体像が見えないためです。私が証拠開示の方法論などということを言い出したのもそのためです。

 技術は弁護士の責任だと言われるかもしれませんが、証拠開示というのは裁判の基盤ですので、上手にやらないと証拠が手に入らないというのでは困るのです。警察署に行けば被疑者に会えるというのと同じように、請求すれば証拠が手に入るということは、基本的なインフラとなるべきです。それには、原則全面開示という形が必要です(たとえばカナダは既にそうなっています)。

⑤証拠一覧表の不完全さ

 法律上、証拠一覧表には概要が求められていません。したがって、検察官がそこに概要を書かなかったとすると、証拠一覧表の価値はずいぶん低いものとなります。さきほども述べたように、「捜査報告書」とだけ書かれた項目が何百件も続くというようなことが起こりえます。

⑥捜査機関の証拠管理

 実はいま、捜査機関がどのように証拠を管理すべきかということを定めた法律が存在しません。たとえば、「証拠をいついつまで廃棄してはならない」と書いた法律は存在しません。証拠の保存や廃棄は全て捜査機関の裁量に委ねられています。
 管理についても、現状では、送致書類の目録や、押収品の目録といった断片的な目録があるだけで、統一的に証拠書類をデータベース管理するような仕組みはありません。
証拠の紛失などの問題も、管理の不十分に由来しています。この点も改善が必要です。
 日弁連が犯罪捜査の記録化についての意見書を出しています。

⑦全体に

 総じて、今の法律は、証拠に対する意識が低いと評価できる気がしています。さきほど証拠開示はインフラであるべきだと書きましたが、現状はそうではなく、むしろ「本来は捜査機関の持ち物であるものを弁護人にも一部利用させてあげる」という恩恵的な発想で作られているように思えます。証拠の廃棄に規制が無いというのも同じ発想だと思います。
 基本的な発想の部分から変えていくことが必要ではないでしょうか。

最後に

 長くなりましたが、できるだけレベルを落とさないで、「証拠開示」というもののイメージを正確につかんでいただき、問題点も知ってもらうという目標で書かせていただきました。

 また別の角度での記事も書いてみたいと思っています。