弁護士山本了宣の研究日誌

活動の記録と、日々考えたことなどを書きます。技術的な話が多いかもしれません。研修などでは言いたいことをだいぶ削っていますので、そのぶんの話なども。

再審証拠開示ガイドラインの準備が進められています

 なにかのものごとを形にするためには、指針や手順が必要になります。道行きが多様でありえたり、見通しが立ちにくいとき、具体的な道しるべが特に重要になります。全ての人が知識や経験を持っているわけではないので、誰かがきっちり研究して、具体的に指針を示してくれればみんなが助かります。そうして作られる指針に、「ガイドライン」なんて名前が付くことがあります。

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 報道がありましたが、いま、再審での証拠開示を舞台に、そんな「ガイドライン」を作ろうという動きがあるのです。その名も、「再審における証拠開示に関するガイドライン(仮)」です。以下では再審証拠開示ガイドラインと書きます。

再審でなぜ証拠開示が問題になるのか

 
 なぜ再審で「ガイドライン」などということが言われるようになったのか。背景を少しご説明します。

 再審で無罪になった事件というのは、結構な数があります。無実の人が何十年と服役するもので、どれも痛ましい出来事です。その「再審無罪」でよく見られるパターンがあります。それは、「起訴した検察官の保管していた証拠から無実が判明する」というパターンです。
 たとえば布川事件ですと、検察官の保管していた毛髪に関する鑑定書、検察官の保管していた目撃者の供述調書といった証拠が、被告人の方の無実を明らかにしています。東電OL事件ですと、検察官の保管していた生体資料が、やはり無実を明らかにしています。
 検察官は、被告人の方を起訴した張本人ですので、その手持ち証拠が無実を示すというのは大変皮肉な事態です。

 普通に考えると、「それどうにかならないの?」と思うところです。つまり、「さっさとその手持ち証拠を出していれば、何十年も服役しなくて済んだのでしょう?」「出すだけなんでしょう?」というわけです。そう、「出すだけ」なのです。しかし検察官は、「出さない」のです。
 再審の現場では、「出せ」「出さない」のやりとりが、数年とか、十年単位で続きます。「出さない」まま再審請求が棄却されたりもします。無実の人はその間も刑務所の中に居たり、どんどん年老いたり(遂には亡くなったり)しています。その「出せ」「出さない」をさんざんやった後で、ついに「出た」と思ったら、その証拠で無実が明らかになった事例がいくつもあります。

証拠開示がなされない理由

 もう少し背景を掘り下げます。証拠開示がなされない原因はいくつかあります。

法律が無い

 まず指摘しなければならないのは法律の不備でしょう。
 いま刑事訴訟法で証拠開示の条文が存在するのは、実は一審の公判前整理手続についてだけなのです。一審の公判前整理手続以外の場面は、再審も含め、一切規定がありません。規定が無い場合、証拠開示は、検察官の「任意」の対応なんだということになっています。つまり、検察官が「出したい」と思えば出す、「出したくない」と思えば出さなくていいということなのです。

 厳密には、裁判所による証拠開示の命令という手続があります。しかしこれも裁判所が動くことが非常に少なく、期待薄な手続となっています。
 これが法律の不備ということです。検察官次第、裁判官次第の実状があるのです。

 証拠開示全般についてはこちらを参考にしてください。
ryosen-y.hateblo.jp

検察官、裁判官の意識

 次の問題は、検察官、裁判官の意識です。さきほど書いたとおり、法律が無くても、「任意」の開示はできます。裁判所が「命令」することもできます。つまり、検察官や裁判官に、「その気があればできるんだ」ということです。
 しかしここまでの話でおわかりいただける通り、「その気」は発揮されていないのです。再審請求人の方も、弁護士も、法律が無いとしても、「その気」がちゃんと発揮されて欲しいと思っているのです。
 特に問題意識を持たれているのが裁判官の対応です。「裁判官がよい対応をすれば、証拠開示も進み、再審開始につながる。裁判官が何もしなければ、証拠開示は進まず、再審も始まらない」。どの裁判官が対応するかということだけで再審請求人の運命が決まってしまう状況を指して、「再審格差」と言われたりもします。

 更に、「なぜ検察官が証拠開示をしたがらないか」「なぜ裁判所が証拠開示に消極的なのか」という問題がありますが、複雑になるのでここでは省略します。

ガイドラインに期待されること

 ガイドラインは上記のような問題意識から出発したものです。法律が無い、「その気」が発揮されない、しかしそれでもなんとか証拠開示を受けなければ再審請求人の方は救われない。今の状況下でも、なんとか証拠開示を実現するために、「せめてこういうことが実行されなくてはならない」、ガイドラインは、その最低線を具体的に示すことが望まれます。

 再審無罪となった事件では、証拠開示が大きな鍵となってきました。その証拠開示が実現するまでに、弁護人、検察官、裁判所がどのように行動したのかを、具体的な書面などから分析することが可能です。そこから、「最低限このような形で証拠開示がなされるべきだ」という具体的な形を引き出せるはずです。それは、現状の法制化において実現可能であり、かつ、冤罪を発見するために最低限必要なラインを示すことになるはずです。同時に、証拠開示に消極的な裁判官に対しても、「裁判所は現にこれだけのことができるんだ」という実例を提示し、証拠開示に向けた訴訟指揮を促す素材となることが期待されています。

最後は立法が必要

 ところで法律の不備ということを申し上げました。証拠開示は、刑事裁判の基本的なインフラのはずです。ここは本来は法律が存在するべき領域なのです。証拠開示については法律できちんとしたルールが定められること(更には再審制度そのものの見直し)が期待されます。
 
 このたびの刑事訴訟法改正にあたって、以下のような附帯決議がなされていることにもご注目ください。

再審が無辜の救済のための制度であることを踏まえ、証拠開示の運用、掲示訴訟法第四百十五条の事実の取調べの在り方をめぐる今国会の審議の状況の周知に努めること。

 こちらも参考にしてください。

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